お知らせ
アメリカビーバーガジコについてのご報告と今後の飼育方針について
ガジコさんの訃報のお知らせの際、ガジコさんや飼育員へのあたたかいメッセージや、
贈りものをありがとうございました。
5月24日、アメリカビーバーガジコさんの剖検を行いましたので、
所見と、それを踏まえた今後のビーバーの飼育方針をご報告します。
この度の急な体調変化の直接的な原因は見つからなかったのですが、消化器の異常が見られました。
まず、奥歯(臼歯)がほとんどなく、ボロボロの状態でした。
また、形がゆがんだ臼歯が、口腔内を傷つけて、慢性的な口内炎ができていたようでした。
次に、胃の形の変形や、十二指腸に炎症が見られました。
これらの状態から、消化機能が慢性的に低下していたことがうかがえました。
また、以前飼育していたコメコさんという個体にも、今回と同じような所見がみられました。
このような症状があった理由として、根菜類や果物の給餌のリスクが見えてきました。
なぜそう考えられたかというと、1つめは、ビーバーの口腔内の構造にあります。
ビーバーの口腔内は、水中でもピタッと閉じられる狭い構造になっているため、
口腔粘膜と歯・歯肉の間の隙間が少なく、食べた物がつまりやすい構造だと考えられます。
野生で食べるような樹皮や葉っぱならば、問題ないのですが、
人用に品種改良された、糖分が多いイモやリンゴが歯や歯肉の隙間につまると、虫歯や歯肉炎のリスクになります。
また、ビーバーの歯は、正面のオレンジの色の門歯だけでなく臼歯も一生伸び続けるため、
高齢化によりすり減ってしまいボロボロになってしまったとは考えにくく、
サツマイモなどの給餌による口腔内の病気の可能性が高いとされました。
2つめは、 ビーバーの消化の機能にあります。
ビーバーは、野生ではヤナギやポプラなどの葉っぱや小枝、樹皮などの、繊維質が多く糖質が少ないものを食べています。
そのため、消化器もこれらの餌に適応した特徴を持っており、果実や根菜類の様な糖質(デンプンなど)を大量に含む飼料には適応していないと考えられます。
ビーバーと同じく、単胃性の後腸発酵動物である馬では、
デンプンなどの糖質を大量に含む餌料を摂取した場合、胃潰瘍を生じさせやすいことが知られているそうです。
飯田市立動物園のビーバーの主食は、ヤナギなどの木と草食動物用ペレットです。
それと並行して、ビーバーを導入した2009年から、イベントの際や健康チェックの際にサツマイモを与えてきました。
そして、2020年ころからは、先ほどのリスクを考えて根菜類の給餌をほとんどなくしていました。
しかし、量は減らしながらも、イベントの際や健康チェックの際には、サツマイモを与えてきました。
今回のガジコさんの件で、ビーバーに根菜類や果物を与えるリスクを改めて考え直し、
今後は、木、枝葉や草、草食動物用ペレットのみの給餌を目指そうと決めました。
Twitterアカウントを開設してから今まで、ビーバーはサツマイモが好きですと発信していたため、
ファンの方からはたくさんのお芋をいただきました。少量はビーバーたちの歯の健康チェックに使用し、
残りは根菜類を食べても問題の無い動物たちに与えさせてもらっていました。今までほんとうにありがとうございました。
しかしこれからは、ビーバー本来の食性をお伝えし、健康なビーバーの姿を来園者やファンの皆様に見ていただくことで、
その動物の魅力に気づき、興味を持ってもらえるように、飼育の仕方や発信方法をあらためて考え直していきたいです。
今までビーバーを思ってプレゼントを下さった方、応援してくださったみなさま、
悲しい思いをさせてしまいましたら、本当に申し訳ありません。
しかし、ガジコさんやコメコさんが学ばせてくれたことをしっかり肝に銘じ、
今後も動物園全体をいい環境に変えていくために、飯田市立動物園はみなさまと一緒に成長していきたいです。
ハナコさんの食事のバリエーションが減ってしまってかわいそうと思われるかもしれませんが、
もともとビーバー舎に生えている様々な種類の草を食べてもらったり、新たな樹種の導入も検討したりしながら、
より自然に近く、かつ選択肢のある給餌内容を目指していきますので、どうかご安心ください。
飯田はヤナギが採取できる環境にあるため、今後もしっかり採りに行こうと思います。
長くなりましたが、これからも飼育員一同成長して参りますので、
飯田市立動物園と、動物たちを、よろしくお願いいたします。
※この件に関しましての、ほかの動物園さん、水族館さんへのご連絡は、お控えいただきますようお願いします。
ビーバー担当飼育員