お知らせ
屠体給餌でワクワクごはん
屠体給餌(とたいきゅうじ)とは、毛皮や骨などがついた自然に近い状態の肉を飼育動物に与えることをいいます。
当園では今回初めて、肉食のアンデスコンドルに駆除された野生のシカ肉(足部分)を与えました。
日本国内では約30年前に比べ、野生のシカやイノシシの生息数が急激に増えており、各地で農林業や生態系に大きな被害をもたらしています。
その対策として国が生息数管理をおこなっており、積極的に捕獲駆除が実施されています。
しかし捕獲駆除された野生動物のうち、ジビエなどに活用されている割合は全体の1割程度に留まり、残りはほとんどが廃棄処分となっていることから、駆除動物の活用の拡大が課題となっています。
こうした背景から、全国の動物園水族館では、屠体給餌をすることで駆除動物の有効活用を図っています。
主に、ライオンやトラ、ハイエナなどの肉食動物に実施されているそうです。
また、屠体給餌をすることは駆除動物の廃棄問題解消になるだけでなく、飼育されている肉食動物たちにもさまざまな良いことがあります。
飼育下では普段、このような人が食べられるように処理された生肉を与えています。
しかし、これだけでは野生と比べて「食べる時間が短くなる」「皮や肉を引き裂く行動が減る」「筋肉が衰える」などのストレスや健康問題に繋がる可能性があります。
その点、屠体肉は自然に近い状態なので、時間をかけて皮を裂き、骨についた肉を引きちぎって食べるなど、肉食動物本来の採食行動を引き出すことができます。
採食時間がのび、運動や行動の機会が増えることは、飼育動物にとって良い刺激(ワクワク・ドキドキ)になり、動物福祉の向上につながります。
(飼育動物の飼育環境を改善してストレスを軽減することを『環境エンリッチメント』といいます。
屠体給餌は、環境エンリッチメントの中でも採食行動にフォーカスをあてた『採食エンリッチメント』にあたります。)
今回アンデスコンドルに屠体給餌をおこなった際、●皮を剥ぐ●足で肉を押さえる●肉の中に嘴を突っ込む●骨を咥えて移動させる などの行動が見られました。
どれも、通常の給餌では見られない行動でした。
メスのエリザベスは、前に暮らしていた動物園(甲府市遊亀公園附属動物園)で屠体給餌の経験があったためか、特に警戒することもなくすぐに食べはじめました。隣に通常餌も置いたのですが、先にシカ足の方に食いつきました。
一方オスのドルチェ・アンアンは給餌日には食べに来なかったものの、翌日昼頃には2.5㎏のシカ肉がほぼ骨だけの状態になっていたため、時間が経ってから食べに来ていたようです。
個体によっても反応が違うのがまた面白いなと感じます。
飼育動物たちは野生動物と比べて、何もしない『暇な時間』が多いです。
限られた空間でできる行動は限られたものになってしまいます。
屠体給餌では採食時間を延ばすことで、飼育動物たちの『暇な時間』を減らし、『行動する時間』を増やすことが出来ます。
今後はコンドルだけでなく、雑食動物のタヌキやキツネなどにも屠体給餌を実施し、飼育動物のQOL向上に努めていきたいです。
★この屠体肉は、捕獲したものをそのまま与えているわけではありません。
野生動物は、寄生虫や病原菌を保有しているリスクがあるため、そのまま給餌するのは病気などにかかる危険性があります。
屠体給餌で使用する肉は、専用施設で低温加熱殺菌処理をしたものを与えています。
※ 当園では、愛知県東栄町にある施設((株)野生動物命のリレーPJ)で処理したものを購入しています。